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第1部 三章【護りのミサト!】その5 第一話 イカサマよりタチが悪い

作者: 彼方
last update 最終更新日: 2025-12-01 18:30:00

68.

ここまでのあらすじ

 旅先で偶然にもかつて同じリーグに所属していた元師団員、第35期新人王の中野雅也と遭遇し対局することとなるミサト。

 苦戦こそしたものの現役の力を見せつけてミサトたちは中野に勝利。

 今度の行き先は千葉県。次はどんな強敵がミサトたちの前に現れるのであろうか――

【登場人物紹介】

井川美沙都

いがわみさと

主人公。怠けることを嫌い、ストイックに鍛え続けるアスリート系美女。金髪ロングがトレードマーク。通称護りのミサト 日本プロ麻雀師団所属 獲得タイトル 第36期新人王 第35期師団名人戦準優勝など。

飯田雪

いいだゆき

井川ミサトの元バイト先の仲間でありミサトのよき理解者。ボーイッシュな髪型、服装をしているが顔立ちはこの上なく女の子で可愛らしい、そのギャップが良い。

金田朱鷺子

かねだときこ

新宿でゴールデンコンビと言われる2人組。生物学的には女だが、見た目は美男子で『トキオ』の名で通っている。通称TKOのトキオ。麻雀真剣師団体ツイカの1期生。新宿ゴールデン街で店をミカゲと共同経営している。

金子水景

かねこみかげ

トキオと2人でゴールデンコンビと言われる一流雀士。通称隠密ミカゲ。麻雀真剣師団体ツイカ1期生。新宿ゴールデン街で店をトキオと共同経営している。普段は分厚いメガネをしててダサめな姿だが、メガネを外しコンタクトにするとすごく美人。

その5

第一話 イカサマよりタチが悪い

 麻雀『ささき』ではフリーが二卓。セットが一卓立っていた。平日の真っ昼間なのでそんなものでも仕方ないが、ただここはゲーム代の安い『低レート雀荘』と言われる店なのでもう少し流行ってないと困る所。ここのように駅近だったら尚更だ。

 八千代台の駅近だったら家賃も安くはないはずだ。

(ちょっと淋しいわね。駅前なのに。ていうかこれ駅ビルの一部よね。駅ビルに雀荘が入ってるのは少し面白い)

(ガラの悪いセット客もいるし、この店はハズレね)

(まあ、セットなら関係ないからって気にしないで入れてるんだろうけど、こんな狭い空間でガラの悪い連中と一緒に居たい人がいるわけないからね)

 ミサトとユキは別々の卓に案内された。ユキは入り口近くのメイン卓、ミサトは昨日からずっと続いている奥の卓でセット卓の近くだった。

「しっかし、呉さんはワルだよなあ。ちょっと腕が立つ程度のカモを見つけ出してはおだてて乗せてその気にさせて気がつけば地獄行きのコースにしちまうんだもんな」

(? なんの話だろう)

「おいおい、人を極悪人みたいに言うなよな。別にイカサマはしてないんだからよ」

「あんなもんはイカサマよりタチが悪いってーの」

「そうそう、勝てるわけない勝負に誘い込んで甘い汁吸う。あんたは間違いなく極悪人だっつうの。さすがは『人誑しの呉』だ」

「ぎゃははははは!!」

(イカサマよりタチが悪いってどういうからくりなのかしら…… 気になる話ね)

「おい、姉ちゃんのツモ番だよ!」

「あっ、ああ、すいません」

(なんだろう、彼らの話がどうしても気になるわ)

「しかし伍麺斉(ウーメンチー)のおやじもとんだお人好しだよな。伸也は同じ施設育ちの親友なんだとか言ってたけど、親友だとしても担保に自分の店差し出すか? ありえねーだろ。奥さんだけとは言え家族いんだぞ」

(!? ウーメンチー?? それって)

「あれ、いつまでに金持ってこないといけないんだっけ」

「明日だな」

「いくら?」

「200万」

「ははは!! 厶リだろそれ!」

「簡単に工面出来るなら最初から店なんか担保にしねーよな」

「でもおれあの店のチャーハン好きだったんだけどな。これからは食えねえのか」

「まあ、チャーハンは絶品だった。でもま、しゃーねーだろ。伍麺斉はもうお終いだ」

(やっぱり! こうしちゃいられない!)

「あの、わたし用事を思い出しました。これでラスハンで!」

「そうですか、井川さんラスハンでーす」

「ええ!? どうしたのよミサト~」

「ちょっとね」

「もうー。ホントごめんなさい。私もラスハンで」

 ミサトの思い出の中華屋は今まさに潰されそうになっていたのだった。ミサトはとにかく駆け足で中華『伍麺斉』へと急いだ。

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    89.第三話 稀代の詐欺師! カリオストロ ついに運命のオーラスだ。先ほどの満貫をツモったことにより28200点差は17200点差に縮んでいた。浜田のリーチ棒がついてきたのが大きい。オーラスの親はトップ目の呉なので親っ被りをさせることが出来る。とは言え、満貫では届かない。かなりの不利であることに変わりはなかった。  下家の浜田は萬子一色手に染めるのが一番早そうな好配牌を貰った。そのことを一瞬で読み切るカオリ。(下家の広島弁っぽい男…… 全体的に上下の理牌率が高いな。そして切り出しは6索。萬子染めにする気かもね) それを見た上でカオリも上下を揃えまくった。そんなの上下揃えなくていいだろと言う牌まで正確に直し始めた。(ミサト、なんかカオリ上下理牌多くない? こんなに丁寧に理牌する必要ある?)(これは昔、白山詩織プロが使ったことで有名になった戦略ね。カリオストロという技よ)(カリオストロ……! どんな技なの)(まあ、見てなさい) 浜田は萬子染めの方針に懸念を抱いた。なぜならカオリの上下理牌率の高さからカオリの手も萬子一色に近いのではないかと読んだからだ。同じ色を欲しがっては下家の方は不利である。浜田手牌一二二三伍六七七①⑤2東東 ②ツモ(本当は索子筒子全部払って萬子一色に行こかと思てたんやが上家にも萬子が多いなら話は別や。同じもん狙っちゃ鳴けんし引いてくる可能性も低いわな。ちょうど②筒も引いたしここは123の三色狙いで行こか)打二 これが大きな間違いの一打だった。これだけ萬子が連なっているのだから萬子一色に寄せていく方針を断ち切るべきではなかったのだ。だが、カオリの上下理牌。そこに萬子が多いはずと思ってしまった。

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    88. 第二話 ダニの根性  ユキから引き継いだカオリの手牌は苦しかった。 カオリ手牌 七八八②②②④⑥68東南南 ドラ東 (頑張っても南のみのリャンシャンテンか。だけどここは最低でも満貫ツモが必要……) ツモ八 (七萬を活かしてタンヤオ移行とかしてる場合じゃない。早くリーチまで持っていかないと差し込みが行われて終わる。どうやっても不利なんだ。それなら) 打七 (通れ!)  七萬にロンの声はかからない。死を覚悟した一打でイーシャンテンに漕ぎ着けるがまだ打点は足らない。 「チッ! 気合い入った牌切るやないか」 「ここで一歩でも退いたらもう負けなんですから。当然の選択をしたまでです」  そう言うカオリの手にはあっという間に汗が滲んでいた。それもそのはず。七萬を掴んで捨てる。その作業に何人もの人生が乗っているのだ。それはとてつもないエネルギーを使わないと切れない一打だったはずだ。そこまでして進めた愚形2箇所残りのイーシャンテンにユキは目に涙を溜めながら見守った。  ミサトも神の存在を信じたこともない無神論者であるくせに何かに対して祈っていた。それは麻雀の神であるのか、それともカオリにであるのか。  いや、それは運命に対してだった。自分たちの友情に対して。これまでの青春に対して。自らの人生に対して。 (絶対に乗り越えられる! お願い! 勝って!)と願わずにはいられなかった。こんな所で終われない!  すると次巡…… カオリ手牌 八八八②②②④⑥68東南南 赤5ツモ (うぉ!)  喉から手が出るほど欲しいと思っていた赤ツモ! もう8索に用はない。この牌も危険牌だが。 打8 (通れ!) パシン  何人もの運命を乗せた一打のなんと重いこと。打牌音が響く。強打したつもりはない。ただ、勢いよく振り下ろさないと打ち出せないのだ。緊張で腕の振りをコントロールできないくらいカオリの筋肉は強張っていた。  はあっ!  はあっ! 「おうおう、頑張るやんかー」 「見上げた根性だ。極道に向いてるぜ」 「は、極道? 笑わせないで下さいよ。極める道とか。厨二病なんですか? ただの弱虫チンピラ集団が何を極められるってわけ。あなた達はただの怠け者。何もできない。真剣に仕事をしようともしない。『普通の人』になれなかった落ちこぼれよ! 今だって、正々堂

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